昭和初期の松竹蒲田撮影所を舞台にした山田洋次監督作品ですが、内容的にはおそろしくステレオタイプな山田節の悲喜劇で、なにも考えずに観るが一番といったところではあります。
ただ、その当時の事情をある程度知っているヒトにとっては、それなりに楽しめる(かなり露悪的にですが)佳作なのかもしれません。
おなじく蒲田の撮影所を舞台にした「蒲田行進曲」と比してもなお、あまりにベタなドラマツルギーや、平板な画面構成(美術も努力は認めるが今一つ)はさておき、ワタシが「お」と思ったところを2、3書きとめておきます。
当時の松竹の監督が名前を少し変えて(類推できる程度に)登場するのですが、岸辺一徳扮する小津安二郎監督が意外に似ていた。特に風采はよく似せていたように思える。
で、その小津組の撮影シーンで、ちゃんとローアングルのカメラポジションと、厚田雄春(小津組戦後の撮影担当)的風貌のカメラマンが鍔付き帽子を後ろ向きにかぶっていたというのが、目配りを感じさせます(筑摩書房刊「小津安二郎物語」表紙カバーを参照)。
渥美清や倍賞美津子、前田吟が結局のところ「寅さん世界の住人」として登場してしまっている。これがまた予定調和的ではあるけど(がゆえに)うれしい。
笠智衆が数カット登場するのですが、これがまたいい味出してる。中井貴一を起用しているところもいいですな。お父さん(佐田啓二)ほど美男子ではありませんが、やはり重要です。
と、ディテールにはそれなりの配慮があり、そういうところを楽しみました。楽屋オチと考えても構いません。