ワタシが10代のころ乗っていたヤマハSR400は82年式の悪名高いキャストホイールだったが、H型のアルミリム+スポークホイールに換装していた。そのおかげでチューブレスタイヤが装着できなくなったこと以外は満足していた。ブレーキは初期型ディスクブレーキだったが、GX系の部品を流用したモノで、効きはそれなりだった。
ロングストロークこそビッグシングルの醍醐味であると何かの本に書いてあったことに感化され、とりあえず純正部品を使って500ccにしたのだが、スクウェアから少しぐらいロングストロークにしても大差はなく、そのころ知人に乗せてもらったBSAゴールドスター(500cc)の特性とは似ても似つかないシロモノでしかなかった。
グランプリレースの世界で、60年代にイタリアのMVアグスタやその後のホンダといった多気筒レーサーに駆逐される前に栄華を誇っていた英国のシングルレーサーたちは、みな50馬力以上の高出力を誇っていたが、もとよりワタシが手本にしたのはその初体験の「ゴルディ」であり、普段は公道を走り、保安部品を取り去れば立派なレーサー、つまりクラブマンレーサーのたたずまいである。
ロングストロークだが高回転エンジンそして「クロスしていない」ミッションが、その味わいを深める、はばったい表現を借りるなら、「鼓動」を感じさせるということに気がついたのは、ずいぶんたってから。さすがにミッションに手をつけるのははばかれたので、とりあえずパワーだけを得ようと思ったあたりから困難が始まった。
手始めにホワイトブロス製のハイカムとバルブスプリングを入れた。ついで導入したデロルトのキャブレターおよびメガホンマフラーの効果もあって、かなりの高回転型になったことでトップスピードだけは確実に増した。しかしブレーキの脆弱さが際だつようになり、命を危険を脅かす場面にも遭遇し、ブレーキ周りの強化を考える。当時はブレンボが一番の人気だったが、モダンすぎるそのブレーキキャリパーを装着したとき、ノーマルSRのデザインバランスが崩れることを考え、結局RZ350の部品を流用してダブルディスクにした、制動力そのものは飛躍的に向上したが、結局フレームやサスペンションの弱さが気になるようになった。
SRが初期のディスクブレーキからドラムブレーキにモデルチェンジした頃、そんな中途半端な怪物を持て余し、すでにSRには乗っていなかったが、大昔のヤマハTZに装着されていたような大型のレース用ドラムブレーキではないので、なぜこんな「改悪」をするのかと訝った。パワーアップのための改造をするのがSRだと考えていたワタシのような人間は少数になったのかなとも思った。
そのころのヤマハはスポーツ走行は新鋭のSRXで、ドレスアップを楽しみたいヒトはSRという区分けをしていたように思う。確かにSRXは洗練されていたし、素人が改造したSRよりも良く曲がり、良く止まる。しかし、それならエンジンだってパワーのある多気筒を選択すればいいわけで、アマチュアが改造を楽しめる単気筒は複雑になってほしくないと思っていた。
レーサーレプリカが人気を失ってずいぶん経つが、元々ラフロード目的で売り出されたSR(それをロードレーサーにしようする無謀さ!)がいまだ高い人気を持っているのは、言ってみればその個性のなさ、言い換えればメーカーの主張がないあたりにある。そのやる気のなさとは別に、波はあるが通年販売が好調だったから今まで売り続けてきただけともいえる。それがメーカーの良心ととられるのは初期モデルの設計者をこそばゆくするだけだろう。
ともあれ、2001年モデルのSRでは放熱孔付きのディスクブレーキがついて、そうそうSRにはディスクブレーキが似合っているんだよ、とそのいささか大袈裟な放熱孔を見ながらひとりごちた。クロムウェルもどきのヘルメットをハスに被るような懐古趣味はたくさんだものなとも思う。最近発売されたホンダFTRに関しても同様の感想を持つが、それはまた別の機会に。